場外からの見方をすれば
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


これの一体どこが暖冬だったものか、
東北・北陸・北海道方面のみならず、
太平洋側の平野部という地域にまで、結構な雪が舞い、
厚着をしていても底冷えがしたり、
冷たい突風が家屋の屋根や木々を薙ぎ払ったりした、
結構とんでもないレベルで極寒大荒れだった気がする今期の冬も、
それでもようやっと、出口が見えて来たかなということか、
ふと気がついて“おや”と顔を上げてしまうような、
春めきを予感させるような陽射が差すようになっても来ており。

 “…お?”

自宅から乗って来たセダンをとある邸宅の門扉の間際まで寄せ、
シートベルトを外して運転席から降り立った途端、
覚えのある香りに気がついた。
切れ長の鋭い双眸が 辺りをくるんと見回せば、
見上げる高さのそれがお屋敷周縁を巡る鉄柵の向こう、
小さめの茂みが赤みがかった紫の蕾を膨らませている中、
幾つか白っぽい小花を開いていて。

 “ジンチョウゲか。”

春先に咲く花の甘い香りが好まれる低木で、
街路樹の足元なぞにもよく見受けられるそれなれど。
当家の場合は、小さなお嬢さんがいたく気に入り、
何年か前に庭園全体への大きな植え替えを計画されたおり、
絶対抜かせるものかと身を呈して頑張ったという
何とも可愛らしい逸話付きの茂みでもあって。

 “そんな本人とは真逆な花だよな。”

何とも可憐な小さい花で、
この独特の香りがなかったならば
咲いたことにもなかなか気がつかないかも知れぬ。
一方のお嬢様はといや、途轍もなく寡黙で寡欲で
私が私がと前へ出てくるタイプではないが、

 そんな資質とは 正に裏腹に

軽やかな金の髪をし、玻璃のような透き通った色合いの瞳を持ち、
鋭角ながらも端正な美貌は
まずは人々を黙らせるほどの迫力さえ たたえておいで。
淡雪を思わせる白い肌に、すらりと引き絞られた痩躯は
その物静かで玲瓏透徹な佇まいを鮮烈に引き立て。
一旦 眸に入ればまずは視線が外せなくだろう、
それは華やかな風貌の持ち主なのであり。

 “…とはいえ、”

確かにまあ、言動のうちの“言”こそ大人しやかではあるけれど。
ここ数年ほどは、
お転婆という言い回しでは収まらないかも知れぬ桁、
文字通りの暴れまくった挙句、
何かとお騒がせをやらかしてくれてばかりなのが、
頭痛の種でもある困り者だったりもして。

 “そういうところも、前世からの因縁なのだろうか。”

主治医として日参に近いほど訪れているお宅なだけに、
厳密には“家人”ではないけれど、それに準じた待遇を受けてもいて。
来客としてチャイムを鳴らしてもいいが、
実はこちらの門扉の鍵を預けられてもおり。
何もわざわざお手を煩わせることもなかろと思うよな訪問では、
自分で開閉しもするその勝手から、
コートのポケットを探りつつ、愛車の傍らにひょいと降り立った榊せんせえ。
キーケースを探り当て、取り出したその所作の端、
視野の隅っこに入った存在へ おやと意識を誘われてしまい、
あらためて顔ごと向けると、

 「久し振りだな、坊ちゃん。」

そんな声を挨拶代わりに掛けている。
ここいらではまだ早い春の使者、桜の花の…遠い親戚のような、
鮮やかなピンクというキテレツな色合いに染めた髪を、
しかも背中へ垂らすほども伸ばしている青年が、
仔牛ほどもあろうかというそりゃあ大きなバイクを、
だがだが手慣れた様子で勇ましくも押して来たのと、
間が良いものかどうなのか、
そちらもご自宅前にあたろう辻にて鉢合わせと相なって。
ちょっぴり“思うところ”があったせいか、
ちょいと伝法な言いようで声をかけたこちらへ対し、

 「お久し振りっす。」

そちらも気を悪くすることはなく、
だが、両手が塞がっているからだろう、
ひょこりと頭だけ下げる格好の会釈を返す。
顔見知りという以上の知り合い同士、
お互いの素性も気性も ある程度知っており、
尚且つ、相手が気安い口を利くのを許容し合ってもいる、
つまりは仲良しさんだからで。

  「おいおい」 × 2 (笑)

重厚な玄関までお車を回しての
ややもするとドア・トゥ・ドアでお出掛けが常、
そういった格好の外出こそすれ、
歩きで足りるようなご近所における瑣末な用事へは
執事やメイド頭といった家人が出向くため、
ともすりゃ季節の変わり目くらいしか
顔を出しもせぬよな住人がほとんどなお屋敷町でも
名家同士ゆえか ご近所付き合いは結構あるもの。
ましてや、同い年同士の幼なじみだから…というより、
微妙な遺恨始まりの、
当人たちに言わせりゃ“腐れ縁”つながりなお隣さん。
微妙な遺恨というので却って勢いがついたよなものか、
先に紹介した当家のお嬢様とはまるで男同士のような相性で接しておいでの
弓野さんチのヨシチカくんは、
こういう風体から単なるやんちゃに見えるが、
その実 侠気もあっての人望も厚く。
小さいころは、
衆目のあるところで男扱いされたから、
片や恥ずかしいところを蹴られたからという
お互い様な(?)遺恨もあってか
顔を合わせりゃ“あかんべ”する間柄だったが、

 “あの久蔵の思うところを
  きっちり把握出来るまでになってようとはな。”

くどいようだが、自宅が隣同士だとはいえ、通う先も違った身ゆえ、
せいぜい登下校のタイミングが合えば顔を合わせる程度のお付き合い。
だというにも関わらず、
ちょみっと風変わりなお嬢さんのしでかすあれやこれやとも
絶妙なタイミングでお付き合いくださっており。
今にして思えば
エキセントリックなお嬢さんが何となく不憫だったものか、
何かと気に留め、彼なりに見守ってくれていたらしく。

 “よほどに器の大きい坊ちゃんだったということか。”

かくいう自分も、
双方ともに休みの日だったものか、
良家それぞれの広い庭の端にあたろう、柵越しに顔を合わせの、
何やら会話らしいものをしている彼らを見たことはあって。
それだけを聞けば、何だ親しいんじゃないのと来そうだが、
片やはペットのお風呂だという格闘中で、もう片やは愛車の整備中という、
お互いに片手間の、しかも一方はロクに喋りもしないままという
何とも珍妙な顔合わせ。
そうまで傍に居合わせているんだから、
もう少し愛想よく顔を見合わせるとか すりゃあいいのにと、
見かけた主治医さんが ついのこととて苦笑をしたくらい。
そんな接点しかないにもかかわらず、いやさ、それで十分だとするほど、
彼らなりのツーカーな相性は築かれていたらしく。

 “いつぞやは、奴らの大作戦の片棒かつぎもやらかしたものな。”

七郎次のお迎えなんてな駒に使われたことがあり、
面白そうだからと軽い気持ちで加担したようでもなく、
かと言って無責任にも“関係ない”としらを切り通しもせずで、

 『あれは先々で結構なたぬきに成長しかねぬぞ。』

久蔵の身内ならお主の管轄だから…ということか、
他でもないあの勘兵衛からそんな風にクギを刺されたことまで
思い出される困った存在。

 「あいつ、どうかしたんスか?」

ほら、あっさりと感づいて訊いてくるほどに通じてる。
具合が悪くなって呼ばれたのなら、
榊せんせえも脇目も振らずに邸内へ駆け込んでるだろうに、
顔見知りが来たからと まずは会釈するだけの余裕はおあり。
そんなところから
“大したことではなさそう”なんて断じるだけの把握をお持ちな坊ちゃんへ、
いっそ聞いてほしくもなったのは、複雑で微妙な胸のうち。

  普通は…という言い方も今更なのかも知れんが、
  いくら強い憤怒に衝き動かされたからと言ったって、
  十代半ばのお嬢さんが、
  棍棒なりゴルフクラブなりを人へ向けて振り上げたり、
  それを相手へ叩きつけるなんてこと、
  迷いもなくの冷静に、出来るもんじゃなかろうにな。

草野さんトコのお嬢さんみたいに、やっとぉに馴染んでいる訳でもなし、
バレエやピアノにバイオリンを嗜む、
文字通りの“深窓のお嬢様”なはずな三木さんチの久蔵さん。
だのに、花も恥じらう高校生となったその途端の この変貌ぶりよ。
それは鮮やかに両手もちの特殊警棒をぶん回し、
並外れた跳躍と身ごなしで
忍者もかくやという大活躍をしているらしいのだから、
そういう肩書を配されてはないけれど、
それでも“教育係”も同然な立場の榊兵庫さんとしては、
どこで間違ったかなぁという
反省と一緒くたの懸念がなかなか払拭されぬ日々なのでもあって。

  これもまた、
  前世から持ち越してる因縁なのかなぁ、なんて

ついつい、そちらのせいかと思うのも無理のないところなれど、
そこまではさすがに事情が通じぬだろう相手に向かって、
こんな世迷いごとでしかなかろう言いようをする訳にもいかぬ。

 「?? 榊センセ?」

不意に口をつぐんで何とも言えない顔になった三木家の主治医様へ、
キョトンとして見せるこちらの青年も。
見た目が恐ろしく
過去の知己にそっくりなものの、
どうやら自分たちのような“転生びと”ではなさそうなので、

 “久蔵への取り扱いの上手さとか、頼りにしたい存在なのだが。”

何とも惜しいような、と
そちらからもやはり“残念だなぁ”との吐息をついてから

 「いや何、
  またぞろお転婆をしでかしちゃあいないかと思ってな。」
 「あ。スマホ切ってるんですね。」

ほら、そうまで通じているのにねぇと、何とも残念そうなお顔になりつつ、

 「まあな。
  もしかしてスマホは部屋へ置き去りに、
  庭のどこかで くうと鬼ごっこならと思って来てみたのだが。」

仰せの通りだと頷いたせんせえの 懸念の矛先であるお嬢様はといやぁ。




まだギリ冬場で、
しかも今日は昨夜から寒気団も下降しており、
よって厚着の相手だからと見切ったこともあってだろうか。
当社比 1.5倍ほどの威力もて、
愛用のスライド型特殊警棒を風切る素早さで振り切ると、
相手の二の腕へと叩きつけ、

 「ぐあぁっ!」

罪のないご婦人から手提げを奪ったそのまま
一目散に駆け出して逃げ去った不埒な引ったくりに。
余裕の俊足で追いついたのみならず、
問答無用で路面へ叩き伏せ、見事 仕留めておいでの鮮やかさ。
一部始終を見ていた周囲の皆様が“おおぉっ”と歓声を上げ、

 「止まりなさいとの声掛けが出来ない、
  内気な人魚姫ゆえに、
  手が先に出ているように思えるだけですよぉ、佐伯さん。」

 「そぉうかなぁ〜。」

犯人が雑踏に紛れてしまわぬようにと、
逃げる背中へ目印のカラーボールを素早く投げ付けたらしい
みかん色の髪をしたひなげしさんの言いようへ。
宿題のない春休みを前に、
性の悪い悪戯者が出没中と聞いての出動をしていらした、
地域としては管轄が違うが、
妙に関係者になる一部の顔触れが
結果として管轄下という
ややこしい身の上の警視庁の巡査長さん、
そんな解釈がありますかいと、
しょっぱそうなお顔に
なってたそうでございまして。

  春が来るのも善し悪しだなぁ、と
  一部の大人たちが呟いた、
  そんな季節の到来なようです、お方々。




    〜Fine〜  15.02.28.



  *久し振りのご登場です、ボーガンさん。
   鼻へのマスクのせいでしょか、
   ハナカケって呼び名が正式名称(?)だそうですが、
   本編内では呼ばれてもないですし、
   ウチではそのマスク自体を掛けていないので
   弓矢かかわりの名前で出ていただいてますvv

   周辺も相変わらずなら、
   お嬢さんたちも相変わらずでしょうか。(おいおい)
   多少は控える…のは、やっぱ無理なのかなぁ。
   ちなみにシチさんはというと、
   こないだ怪我を負った勘兵衛様の見張りを依頼され、
   完全治癒するまではと
   傍に付きっきりで見張っておいでならしいです。(笑)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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